その1を読むと、
なんだ、「Transformerのほうが強いじゃん」と思うかもしれません。
たしかに、知識をたくさん持ち、文章をそれらしく生成し、画像を分類し、会話までできる。現代のAIの主役がTransformerになったのは当然です。けれど、それでもアソシアトロンには別の価値があります。なぜなら、アソシアトロンは“知識を増やす装置”ではなく、“記憶を思い出す装置”だからです。
たとえば、
体育館とエアーサロンパスの匂いを嗅いで
40数年前の記憶がよみがえる。
1,バスケットの試合中に相手の肘が顔面にあたる
2,気絶
3,ふと気づくと体育館の隅で知らない女性が手当をしてくれている
4,気になる女性
普通、人間の脳でも思い出そうと思って数十年前の人物というのは簡単に思い出せません。しかし、あるヒントやきっかけで姿や表情、声までも思い出すことがあります。
それを連想記憶といい、まさにアソシアトロンはそういう思い出す装置ということです。
人間の脳も、世界中の百科事典を丸暗記して賢くなっているわけではありません。むしろ、人は限られた経験の中で生きています。それなのに、ある匂いを嗅いだ瞬間、ある景色を見た瞬間、ある曲を聴いた瞬間に、信じられないほど鮮明に過去が立ち上がる。しかもそれは、「検索」した結果ではなく、「勝手に戻ってきた」感覚です。思い出すというのは、そういう現象です。
中野馨先生が凄かったのは、脳を「神秘」として扱わなかったことです。記憶という現象を、根性論や精神論ではなく、「装置」として設計しようとした。記憶パターンを入れれば、結合の行列(T行列)として記憶が固定され、入力を与えれば想起のダイナミクスが走り、どこかの“谷”へ落ち着いていく。記憶・装置・挙動を分けて考える。これがアソシアトロンの骨格です。
世の中のAIが巨大化し、「正しい答えを返す」方向に進化していく一方で、中野先生は「似たものを思い出す」「壊れた入力から回復する」という、人間の記憶そのものに近い現象を追い続けた。その結果として生まれたのが、アソシアトロンという連想記憶モデルです。
そして私は、今の時代だからこそ、この方向に意味があると思っています。AIが巨大化し、クラウドとGPUとデータに依存するほど、「小さな装置」「ローカルで動く記憶」「説明できる記憶」には価値が出ます。アソシアトロンは古典ではなく、むしろ“未来の小さな知能”の原型です。
50年前の研究の可能性が今まさに新しい扉を開こうとしています。
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